何を読んでも何かを思いだす

人生の半分はフィクションでできている。

家を壊す

 

私が住んでいる地区で、しばらく前から一軒の家の解体工事をやっていた。

二階建ての普通の民家で、築年数はわからないがだいぶ古い家のようだった。

その家の前の道が通勤路になっているので、私は仕事の行き帰りになんとなく工事の進捗状況を気にしていた。

 

家の側面から小さめのショベルカーで壊していき、バラバになった家の破片をトラックで運び去るという、ごくありふれた解体作業だ。

そんなに大きな家ではなかったので、数日で家屋の解体は終わったようだった。

家の周りには、庭という程でもない狭い敷地があって、大きな木が何本か植えてある。

その木は残して家だけ新築するのだろうかと思っていたら、家の解体に続いて木も全部切り倒され、根も掘り起こされた。露わになった木の根は、なんだか少しグロテスクな感じがした。

結局その土地は、敷地を隔てるブロック塀だけを残してすっかり更地になってしまった。そしていまも更地のままで、新しく家が建つ気配はない。

私は近所付き合いが苦手なので、そこにどんな人が住んでいたのか知らない。だからその人の事情も知らないし、その土地が今後どうなるのかもわからない。

いや、私も別にそれを知りたいというわけではない。私はただ、誰かが何十年か住んだであろう家が壊されていく様子が気になっただけである。

 


私がいま住んでいる家は、私が7歳の時に改築されたものだ。

改築といっても古い家の部分はほとんど残らなかったので、新築に近い改築だったと思う。それからもう40数年が経っている。外装も内装もガタガタだ。

私は18歳で家を出て、40歳で戻ってきた。戻ってきた時は、私と老父母の3人で暮らしていたのだが、母が寝たきりになって特養老人ホームに入所し、続いて父が亡くなり、結果私はいまこの家に一人で暮らしている。

その家を、あと10年ほどで壊そうと思っている。

 

私はこのまま「独居老人」になる予定だが、いま住んでいるところで老人が一人で生活するのは難しい。早い話しが、田舎で不便すぎるのだ。

なので、いまの仕事が定年になったら(それまでがんばれるかどうかは疑問だが)もっと生活しやすい街に引っ越したいと思っている。購入でも賃貸でも、70歳近くになると難しいらしいので、60代の前半にやっておきたい。

その時に家と土地を処分したいのだが、ちょっとした事情(*)があって家の建物を売ることができないのである。解体して更地にする必要があるのだ。

解体費用もかなりかかると思うけれど、仕方がない。

 

家や土地を処分せずに放置しておくという手もある。

実際、私が住んでいる地区にも、無人のまま放置された空き家が2、3軒あって、雑木や雑草に覆われている。

しかし放置しておいても税金はかかるのだし、なによりもやはり気分が良くない。

自分が生まれ育った家だからこそ、きっちり自分で始末しておくべきだと思う。

 

とはいえ、不精者の私のことだから、途中でめんどくさくなってずるずるとこの家に住み続けるということもおおいにあり得る。

いや、あり得るというか、むしろそっちの可能性の方が高いかもしれない。

そうなったらこのボロ家と私と、どっちが先に「オシャカ」になるかの勝負(?)である。

まあ、それならそれでいいような気もする。

 

(*)ちょっとした事情に関してはこちら。

paperwalker.hatenablog.com