何を読んでも何かを思いだす

人生の半分はフィクションでできている。

絵葉書を読む(その11) 日本のサラリーマン

 

『絵葉書を読む』第11回。今回の絵葉書はこちら。

 

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会社の一室らしいところで社員が乾杯をしているイラストが描かれているのだが、そこに書かれているスローガンがなかなかすごい。

 

働け働け明日ありと思う勿(なか)れ

断じて頑張れ栄冠我に在り

 

ほかにも「責任突破」「愉快な〆切」とある。左に見えるのは営業成績表のようだ。この集まりは営業目標達成の祝宴だろうか、それとも今後の奮起に期待する激励会だろうか。

いかにも昭和のモーレツ社員というか、日本の会社っぽい風景である。

 

葉書の表の差出人の欄に「日華生命保険株式会社」(のちの第百生命)と印刷されているので、この会社のオリジナル絵葉書なのだろう。

差出人は個人名で社用ではなく私信だと思うが、その内容は仕事のことである。

 

元気で活動して居ますか。今度の水害支部は□□上に非常に影響したので支部長も気の毒です。水害地以外の処で大に遣って貰わなければ支部の体面が保てません。昔僕が震災直後に大に遣った様に遣って呉れ給え。(□は不明文字、太字は引用者による)

 

葉書の消印は「日本橋」で日付は「昭和13年7月23日」である。

昭和13年の大きな水害といえば、7月3日から5日にかけて神戸および阪神地域で発生した「阪神大水害」が挙げられる。梅雨前線の影響によるもので、同地域に甚大な被害をもたらした。

もっとも、同じ時期に関東でも水害が起きているので、葉書に書かれた水害がどこの水害を指しているのかははっきりしない。(昭和13年は水害が多かったらしい)

 

葉書の文面から察するに、差出人は東京の「日華生命」本社のかなり地位の高い人で、宛名人(住所は茨城)は支部の人ではないかと思う。しかし公的な文章ではなく、個人的な親しさも感じられる。

水害で被害があった支部の損失は、他の支部全体で補うように奮闘努力してくれ(自分が関東大震災の後にがんばったように)という叱咤激励の葉書である。

まさに裏のイラストのように「働け働け」「断じて頑張れ」というわけだ。

 

なかなか「サラリーマンは気楽な稼業」(クレイジー・キャッツ『ドント節』)というわけにはいかないようだ。