何を読んでも何かを思いだす

人生の半分はフィクションでできている。

絵葉書を読む(その10) ミシン

 

『絵葉書を読む』第10回。今回の絵葉書はこちら。

シンガー製ミシンの広告絵葉書だ。

 

f:id:paperwalker:20220121220943j:plain

 

シンガーは1850年からミシンを製造しているアメリカの代表的なミシンメーカーである。

 

ミシンが日本に入ってきたのは江戸時代末期のこと。

嘉永7年(1854年)、ペリーが二度目の来航をした時に将軍家へ献上した献上品の中にミシンがあったという。ちなみに日本で初めてミシンを扱ったのは天璋院篤姫)だと言われている。

ミシンが普及しはじめるのは明治になってからで、当然ながら輸入品がほとんどだった。

国産のミシンが量産されるのは大正に入ってからである。パイン裁縫機械製作所(現在のジャノメ)が本格的な量産を始めた。しかしこの頃の国産品は質量共にまだまだ輸入品には及ばなかった。

昭和3年(1928年)、それまでミシンの販売と修理を行っていた安井ミシン兄弟商会(現在のブラザー)がミシンの製造を始めた。独自の工夫を施したそのミシンは故障しにくいと評判になり(当時のミシンは頻繁に故障していた)よく売れた。

こうしてミシンは広く普及していった。(以上、例によってWikipediaを参照)

 

さて、上の絵葉書だが、残念ながら消印が不鮮明で年代が特定できないが、貼られている切手で大正から昭和初期というのはわかる。

差出人は個人名だが、名前の上に「シンガーミシン各種/針、油、部分品/ミシン全書/子供洋服型紙/カタン糸刺繍糸」といった取扱品目が並んでいる。シンガーミシンの専門店、あるいは代理店のようなものを経営していた人だろうか。

通信欄には「謹賀新年」とだけあって、つまりこれはお得意様宛の年賀状だと思われる。

 

なんといっても裏面がユニークだ。

上段は若い女性がミシンの前に座っていて、隣にその娘らしい子ども。

「現代の家庭裁縫能率増進にはシンガー和服縫専用のミシンを御備へ附遊せ」

これに対して下段は、手縫いで裁縫しているお姑さんらしき女性。

「時代遅れの手縫ひの遣り方を止めてシンガー和服縫専用のミシンを御採用下さい」

ミシンを使う新世代と、いまだに手縫いの旧世代というわかりやすい対比だが、なんというか、嫁と姑の微妙な感じが……。姑さんをはっきり「時代遅れ」って言ってるし。

洒落が効いた絵葉書だと思うけど、実際に嫁姑の関係が険悪な家庭にこんな年賀状が来たら洒落にならないような……。

それにしても姑さんの顔、怖すぎる。