何を読んでも何かを思いだす

人生の半分はフィクションでできている。

正直者は風邪をひく

 

一昨日、早朝の仕事の後でかかりつけの病院に行った。いつもの血圧の薬を出してもらうためだ。

予約の時間よりだいぶ早かったけど、うまくいけば時間を繰り上げて診察してもらえる。今回は血液検査もなく診察だけなのですぐに終わるはずだった。

 

病院の入り口ではいつものように事務員さんが待っていて、非接触型の体温計で入ってくる人の体温を測り、簡単に体調を聞いている。もうおなじみの風景である。

私も手を消毒したあと体温を測り、さわやかな笑顔の事務員さんから「ここ1週間で熱が出たことはありますか? 風邪をひいてませんか?」という型通りの質問を受けた。

私がなんの気無しにへらへらした顔で「ああ、ちょっと風邪気味で……」と答えたその瞬間! 事務員さんの表情が一変した。漫画だったら「くわっ」という書き文字が入る感じだ。

しかし事務員さんはすばやくさわやかな笑顔に戻り(多少こわばっていたが)「どういう症状ですか?」と聞いてきた。

私は(あれ? なんかまずいこと言っちゃった?)と思いつつ、

「熱とか頭痛はないし、喉が痛いとかもないんですが、なんというか、少し倦怠感が……」

「倦怠感!」事務員さんはそう繰り返すと、どこかに電話をかけて「はい」とか「ええ」とか言いながら何かの指示を受けているようだった。

 

f:id:paperwalker:20220226204326j:plain

 

待つことしばし。

結局私は病院の中には入れてもらえず、事務員さんに案内されて病院に外付けするように作られた「臨時診察室」というところに連れて行かれた。まずそこでコロナの簡易検査(抗原検査)を受けなければならなくなったのだ。

「すいませんねえ。一応、念のためですから。あとで看護師が検査キットを持ってきますから。すいませんねえ……」と事務員さんは言って、私を残してそそくさと帰っていった。

「臨時診察室」はやや縦長の8畳ぐらいの広さで、簡易ベッドと椅子が2脚、小さなテーブルがあるだけの殺風景な部屋だった。私は椅子に座って、なんだかめんどくさいことになったなあと思った。正直に風邪気味なんて言わなきゃよかった。(というわけにはいかないか、やっぱり)

20分ほどして看護師さんがやってきて検査(鼻につっこむタイプ)をし、「2、30分で結果が出ますから」と言い残して出ていった。

それからさらに30分ぐらいたって、ようやく病院の中に入れてもらった。結果はもちろん「陰性」である。

 

私は不機嫌だった。

一時的に隔離されたことに不満があるわけではない。当然の処置だと思う。

1時間近く待たされたことも仕方がないと思っている。問題はそこではない。

問題だったのはその「臨時診察室」があまりにも寒かったことだ。もちろん暖房は入っていたけれど、あまり効果的ではないようだった。途中から設定温度を30℃まで上げたのだがやっぱり寒い。

換気のせいというよりも壁の薄さが原因ではないかと思う。そこは病院の外側にとって付けたような簡易的な建物で、急ごしらえの安普請という印象はまぬがれない。2月の朝の空気の冷たさが薄い壁を通して伝わってくるのだと思う。

体を動かせばいくらかマシになったかもしれないが、仕事の後なので疲れていた。

途中、寒さに耐えかねて毛布をもらいに行こうかとも思ったが、仮にも隔離されている身でうろうろするのもはばかられたので、ただひたすらに我慢していた。

おかげでその部屋を出る時には頭がぼーっとして鼻がぐずぐずいい始めていた。「風邪気味」だったものが見事に「風邪」に昇格したわけだ。

病院に行って風邪をひくって、なんだかなあ。