何を読んでも何かを思いだす

人生の半分はフィクションでできている。

タバコ算

 

たとえば本を買うのに少しまとまったお金(といっても数千円だが)を使うとき、なぜか自分に対して言い訳を考えてしまう。

「ほら、あれだよ? この全集がこんな値段で出てることはまずないよ? ここでスルーしたら絶対ほかの人が買っちゃうよ? 今度は積まずにちゃんと読むからさ。『買わずに後悔するよりも、買って後悔すべし』って古本格言にもあるじゃない?」

とかなんとか。

 

自分で稼いだお金を趣味に使うのだから、べつに言い訳する必要はない。

養うべき妻子がいるわけでもないので、明日からしばらく「白飯にふりかけ」生活になっても誰から文句を言われることもない。

それなのに上のような言い訳を考えてしまうのはなぜだろう。

 

こういう言い訳のときに私がよく引き合いに出すのがタバコである。

たとえば、古本で1万円の全集(全10巻)を買うとしよう。そんなとき私の頭の中はこんなふうになっている。

「1万円は確かに大きいけど、一冊あたり千円なら高くないよ。私はほかにこれといった道楽もしないし、 酒もタバコもやらないし。

タバコなんて、いま一箱500円ぐらい? 1日に一箱喫う人だったら20日で1万円だよ? 私が10冊の本を読むのに(遅読なので)何日かかるかわからない。つまりそれだけ長く楽しめる。しかも、タバコは喫えば消えてなくなるけど、本はいつまでも残るでしょ?

本なんてタバコに比べればぜんぜん安上がりで建設的な趣味だよ。だから買っていいよね?」

……みたいな。

いわゆる愛煙家の人からすれば噴飯ものの言い草かもしれないが、まあただの「屁理屈」なので大目に見ていただきたい。

こうやって自分自身に散財を納得させるのである。

私はこれを勝手に「タバコ算」と呼んでいる。

 

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ところがこの「タバコ算」、最近ではちょっと説得力が低下しているような気がする。

タバコの値上がりや健康志向のために喫煙者が減少しているからだ。タバコ自体がマイナーなものになってしまえば、それと比較してもあまり意味がない。

かといって、ほかに比較対象としてしっくりくるものがない。

酒は種類や銘柄によって値段もピンからキリまであるので比較しにくい。

簡単にお金が消えるという点では、パチンコを引き合いに出してもいいけれど、パチンコの場合は勝って逆にお金が増える可能性があるから面倒だ。

結局タバコと比較するのが一番わかりやすいのである。多少説得力が落ちても「タバコ算」が使いやすい。

 

まあ、説得力があってもなくても、やっぱり本は買うのだが。