何を読んでも何かを思いだす

人生の半分はフィクションでできている。

署名本

 

前回、岸部四郎『岸部のアルバム 「物」と四郎の半生記』という本を読んだけれど、その中に、作家の森茉莉とのエピソードが紹介されている。

岸部さんが趣味部屋としてアパートの一室を借りていたことは前回書いたが、その同じアパートに森茉莉が住んでいたのだ。

森茉莉森鷗外の長女で、自身も作家なのだが、この人は、なんというか、とても個性的というか、独特な人なのだ。その部屋も独特で……まあ、はっきり言えば、足の踏み場もないほど散らかっている。

岸部さんは何度もその部屋に招かれたのだが、とにかく想像を絶するほどの混沌状態らしい。

あるとき岸部さんは『甘い蜜の部屋』の限定本をもらう。しかしそこに書かれた献呈の宛名は「岸邊シロー様」。名前の字が違っている。しかしそういうのもなんとなく森茉莉らしいような気がする。

 

このエピソードを読んだとき、私はただ「へぇ」と思っただけだった。

ところが、である。

その夜、いつものようにヤフオクを巡回していると、その献呈署名本が出品されているではないか!(画像はヤフオクより借用)

 

f:id:paperwalker:20200216172431j:plain

 

f:id:paperwalker:20200216172453j:plain

 

おお、本当に「岸邊シロー様」になっている!

こんな偶然があるとは……。たまたま岸部四郎の本を読んでいたのだが。

これはいつもお世話になっている古本の神様の思し召しなのか? 安い本ばかり買ってないで、たまには署名本みたいなものも買えと?

そうか、神意とあらばやむを得ない、では入札を……と思ったのだが、ちょっと事情があって入札することができなかった。うーん、残念だけど仕方がない。神様ごめん。

 

数日後、オークション終了。

落札額はーー12,000円……。ハハハ……。どっちみち無理じゃん⁉︎  なんだよその値段? 

いや、まてよ。考えてみれば、私は普段署名本には興味がないので、相場というものをまったく知らない。森茉莉の署名本でこの値段は妥当なのだろうか? ひょっとしたらずいぶん安いのかもしれない。署名本のコレクターはこのくらいは普通に出すのだろうか?

はぁ……。いずれにしても私には縁のない世界だ。(金もないけど)

ひとくちに古本の世界といってもピンキリだ。私はやっぱり安い本に埋もれているほうがいい。