何を読んでも何かを思いだす

人生の半分はフィクションでできている。

冬を待ちわびて

 

夏である。

毎年のことだが、庭の雑草がえらいことになっている。

草は伸びるにまかせよ、とばかりに放置しているので、知らない人が見たらとても人が住んでいるとは思わないかもしれない。まあしかし、誰に迷惑をかけるわけでもないのでいいか、と思っていたのだが、敷地の入り口付近の雑草が伸びすぎて車が入りにくくなってしまった。

私自身はバイクにしか乗らないのでいいのだが、外からくる人が困る。

私の家を訪ねてくる人などめったにいないが、それでもたまに用事があってくる人がいるし、荷物の配達もある。せめて車が入ってくるところだけでも草を刈らないと他人様の迷惑になる。

ということで、休日に草刈りをする。

 

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久しぶりに草刈機に燃料を入れて、スターターを思いっきり引く。

……が、ウンともスンともいわない。いや、正確にはプスンプスンとはいうけれど、エンジンがかからない。

去年買ったばかりなのだが、2回ほど使って、ろくに手入れもせずに放置していたのがまずかったのか。とにかく動きそうにない。

チッと舌打ちしたけれど、内心少しホッとした。どうもこの草刈機というのが苦手なのだ。

けたたましい音をたてるのも嫌いだが、むき出しの刃の部分がちょっと怖い。

私は機械に対して臆病なところがあって、慣れない機械はあまり使いたくない。

車の運転なんかもそうで、運転すると事故を起こすイメージしかない。みんな普通に乗ってるよ? と言われるのだが、「みんな」ができるからといって私ができるとは限らないじゃないか、と思ってしまう。

話がそれたが、そういうわけで、草刈機も積極的には使いたくない。いつか、部屋の中を勝手に掃除してくれるロボットみたいに、敷地の中の雑草を勝手に、安全に刈ってくれるロボットができないかなと思う。

 

仕方がないので鎌を使うことにする。

腰をかがめて、ときにはしゃがんで、ザクザクと刈っていく。日頃運動不足の中年にはけっこうしんどい。

しかし、この作業で辛いのは疲労ではない。蚊だ。

どこからともなく湧いてきた無数の蚊が、例の甲高い音をさせながら顔や体の周りを飛びまわり、隙あらばとりついてやろうとこちらをうかがっている。

もちろん私は作業の前に入念に虫除けを塗っている。奴らもそう簡単には手を出せまい。そう思っていても、顔の近くを飛ばれると平静ではいられなくなる。自衛隊の戦闘機を叩き落とす怪獣の気持ちが少しわかる。

すると一匹の蚊が耳にとまる。しまった、耳には虫除けを塗っていない!(耳なし芳一か⁉︎)

私は少し逆上気味に、左手で虫除けを噴霧しながら、右手の鎌で草を刈っていく。

私はいったい何と戦っているのか?

 

こうして小一時間ほど作業する。

広さにして畳4畳ほどの草を刈ったが、このあたりが限界だ。

500mlのスポーツドリンクを一気に飲み干し、シャワーを浴びて、扇風機の前でぐったりする。

これだから夏は嫌いだ。

すべての雑草が枯れ果てる冬が待ち遠しい。