何を読んでも何かを思いだす

人生の半分はフィクションでできている。

開かない花(続・草の名前)

 

あいかわらず私の家の周りは雑草だらけだ。

このあいだ久しぶりに姉が家に来たのだが、そのことでこっぴどく怒られた。この歳になってあんなに人から怒られるとは……。(「どうせ冬になったら枯れるから」と言ったのがマズかったのだろうか)

まあ、確かに一見すると人が住んでいない廃屋に見えなくもない。

「いやいや、これはいわゆる『やつし』というやつで、『わび・さび』と同じ一種の風流であって……」

と説明しても、誰もわかってくれないだろう。けっしてただの不精ではなく、ひとつの美意識として……すいません、嘘です。

 

しかし、こんな雑草でも季節を感じさせてくれるのは確かだ。

初夏の頃に庭のあちこちに咲いていたヒメジョオンは姿を消して、今はそこに別の雑草が花を咲かせている。

背は低く、横に広がるように群生し、ところどころに小さな青い花を咲かせている。

 

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 特にその花の形が特徴的だ。

 

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(画像は2週間ほど前のもの。上も同じ)


この雑草はなんという名前なのか?

 

調べてみると簡単にわかった。

この草はツユクサの仲間でマルバツユクサ(丸葉露草)というらしい。一年生の植物で、花は7月から10月ぐらいまで付ける。

普通のツユクサの葉が細長くて先端が尖っているのに対して、このマルバツユクサの葉は(名前の通り)幅広で先端が少し丸みを帯びている。また、葉の輪郭が波打っているのも特徴だ。

ツユクサマルバツユクサも)花は午前中に開花し、午後になるともう萎んでしまう。朝露のようにはかなく消える花なので露草という名前がついたという説もある。(異説あり)

小さくひかえめな姿といい、なんとも可憐な花だ。

 

しかし、うっかり気を許してはいけないのが雑草だ。

たしかに花ははかないかもしれないが、植物としての生命力、繁殖力はとても強い。はかないどころではない。

繁殖に関していえば、このマルバツユクサにはおもしろい特徴がある。それは「閉鎖花」をつけることだ。

閉鎖花とは名前の通り開かない花のこと。普通の開く花(開放花)が昆虫などを媒介として受粉するのに対して、閉鎖花はその内部で自家受粉して結実する。しかもマルバツユクサはその閉鎖花を地中につくるのだ。

試しに庭に生えているのを引き抜いてみると、こんなふうになっていた。

 

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 この白い茎の先端にあるふくらみが閉鎖花だ。(その左側にある丸いのはすでに結実しているもの)

もちろん地上に咲いている青い花でも普通に受粉できる。そして、なんらかの理由で地上の花が駄目になったとしても、地中の閉鎖花で確実に種をつくることができる。

つまり地上の開放花と地中の閉鎖花の二段構えで繁殖するのだ。

 

 

すごいものだな、と思う反面、そうまでして繁殖したいのか、とも思う。

マルバツユクサに限らない。あらゆる生き物があの手この手を使って少しでも多く繁殖しようとしている。それが生き物の本能だ。

そう考えると、繁殖の意思がない自分が、なんだかとても脆弱な生き物のように思えてくるのだが……。