何を読んでも何かを思いだす

人生の半分はフィクションでできている。

shimijimi drinking

 

もうずいぶん昔のことになるが、どこかの酒だか焼酎だかのテレビCMで八代亜紀『舟唄』(1979年)が使われたことがあった。

歌の内容からすれば意外でもなんでもないのだが、そのCMがちょっと変わっていたのは、使われていた『舟唄』が英語バージョンだったことである。その一節が印象的で、いまも記憶に残っている。

 

ネットで調べてみると、それは宝酒造の「宝正宗」という日本酒のCMで、1987年というからいまから40年近く前のものだ。

英語版『舟唄』を歌ったのは当時文化放送のアナウンサーだった梶原しげる(当時は「茂」)。なんでも梶原さんは演歌を英訳して歌うのが趣味で、「イングリッシュ演歌家元、シーゲル・カジワラ」を名乗ってアルバムまで出していたらしい。その英語版『  Boatman's  song  』(舟唄)が件のCMに起用されたのである。【注】

 

CMではその歌のサビの部分が使われていたのだが、それがとても印象的だった。原曲(作詞は阿久悠)では、

  しみじみ飲めば しみじみと

  想い出だけが 行き過ぎる

という歌詞だが、これが英語版だと、

  shimijimi  drinking , shimijimily

  only  memories  go  on  by

になるのだ。日本語の「しみじみ」をそのまま「shimijimi」としているのである。

私は英語がよくわからないので断言はできないけれど、英語でも「しみじみ」に近い意味の言葉はあるんじゃないかと思う。しかしそこをあえて「shimijimi」および副詞的に「shimijimily 」にしているところがおもしろいし、印象に残る。実際こうして40年近く覚えているわけだし。

しかしこれ、日本語を知らない外国人に伝わるのだろうか。誰かに聞いてみたい気がする。

 

ちなみにこの歌の2番のサビの部分は「ほろほろ飲めば、ほろほろと」で、英訳は当然「 horohoro drinking , horohoroly 」であり、3番(2.5番?)では「ぽつぽつ飲めば、ぽつぽつと」で「 potsupotsu drinking , potsupotsuly 」になっている。

「ぽつぽつ」飲むのはなんとなくわかるが、「ほろほろ」飲むというのはどういう状態なんだろう。英訳以前に日本語がよくわからない。

でもまあ歌なんだから、そういう雰囲気ってことでいいのか。

 


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【注】Wikipediaなどにはこの英訳は梶原氏によるものと記述されているが、当時出されたLPレコードの画像を見ると、盤面中央に「Mary Stickels 英訳詞」というクレジットが見える。したがってこの英訳が梶原氏によるものか、Stickels氏によるものか、あるいは両者の共訳なのか、いまひとつはっきりしない。なのでここでは単に英語版としておく。