何を読んでも何かを思いだす

人生の半分はフィクションでできている。

続・明日は我が身

 

前回の記事で老人は賃貸住宅が借りにくいということに触れたのだが、もう少し具体的なことが知りたいと思っていたところ、こんな本を見つけた。

太田垣章子『老後に住める家がない! 明日は我が身の“漂流老人”問題』(ポプラ新書、2020)

 

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著者の太田垣章子(ふみこ)さんは司法書士で、賃貸住宅をめぐるトラブルを多く扱ってきたが、特にその対象が70代以上の老人だと大変らしい。

最初に断っておくと、この本は基本的に物件の管理会社や家主といった「貸す側」の視点から書かれている。司法書士に相談を持ち込むのは主に「貸す側」だからだ。

その相談は、老人の入居者に関していえば、孤独死の後始末だったり(家賃の滞納や物件の建て替えのための)退去をめぐるトラブルだったりする。この本を読むと、こうした案件でいかに「貸す側」が大変かということがわかる。

 

たとえば孤独死

賃借人(借り手)が孤独死した場合、早期に発見できて、保証人などに連絡がついて後始末に協力してもらえるならまだいい方だ。(それでも物件の価値は下がるが)

保証人はもちろん、その他の身内の所在もわからなければ、後始末は管理会社や家主が自腹でやらなければならない。

この本で初めて知ったのだが、賃貸借契約も相続の対象になる。だからもし賃借人が契約期間中に亡くなったのなら、その権利は遺産相続人に引き継がれるので、家主といえども勝手に契約を解除したり遺品を処分したりできない。だからまず相続人を探すところから始めなければならない。(そこで司法書士の出番になる)

相続人にコンタクトを取って、同意を得るなり相続放棄してもらうなりして初めて動けるのだ。時間も手間もお金もかかる。

 

退去トラブルも面倒だ。

例えば建物の老朽化のために退去をお願いしても、話をまともに聞いてくれないこともある。(賃借人の方も、老人の身で気力や体力が必要な引っ越しなどしたくないのもわかるが)

しかし、賃借人の方に非がある家賃滞納の場合でも、退去させるのは大変だ。最悪の場合、裁判になって強制執行ということになるのだが、賃借人が老人の場合はそれが難しくなる。まだ若い人ならともかく、次の住居が決まっていない老人を追い出すわけにはいかず、判決は出ても執行不可能だと判断される場合がある。そうなるともうどうすることもできない。

だから場合によっては「貸し手」の方で次の住居(施設なども含めて)を探してやらなければならなくなる。

実際に著者は多くの案件で退去してもらった後の住居探しに苦労している。(というか、たぶん普通の司法書士はそこまでやってくれないのではないか?)

 

孤独死にしても、退去トラブルにしても、「貸し手」にとっては(金銭的にも精神的にも)大きなダメージで、そのリスクをできるだけ回避するために高齢者には部屋を貸したくないのだ。

私は前回の記事で、業者や家主も柔軟に対応してほしいと書いたが、事情を知らずに簡単には言えないなと反省している。

 

老人になると部屋が借りにくくなるのなら、老人になる前に手を打たなければならない。

著者は遅くとも60代のうちに「終の棲家」を準備しておくべきだという。

だから、賃貸住宅にずっと住んでいる人も、持ち家はあるけど老後はそれを売って賃貸に入ろうとしている人も、せめて60代後半までには、自分の荷物や財産などをきちんと整理して、これくらいの家賃なら一生払えるなっていう終の棲家を見つけて、出来るだけ早いタイミングでそこに引っ越しておくことがとても大事だと私は声を大にして言いたいんです。(p.131)

 

物より「助けて」と言える人脈を財産とする、身軽になっておく、そして把握するのです。自分の資産がいくらで、この先の医療費も含めてどれくらいの費用が必要で、月どれくらいが使えるのか、まずはしっかり可視化することです。その上で、自分の年齢、家族構成、環境を考慮して「住活」する。「その時がくれば……」は、もう動けなくなる時です。せめて60代で、残りの人生の再設計をする、これが必要なのだと賃借人から私は学びました。(p.236)

 

私はいま50歳だが、あっという間に60歳になるだろう。

前回の記事と同じ結語だが、あえてもう一度書こう。

明日は我が身か……。