何を読んでも何かを思いだす

人生の半分はフィクションでできている。

明日は我が身

 

先日こんなニュースを読んだ。 

headlines.yahoo.co.jp

簡単に要約すれば、不動産業者や家主は、一人暮らしの老人に部屋を貸したくないということだ。

一番の問題はやはり孤独死で、すぐに発見されなかった場合や、遺体や遺品の引き取りでもめるケースなど、業者にとっては面倒なトラブルになる。

また、入居時はなんともなくても、長く入居しているうちに認知症になったり、ほかの病気で一人で生活することが困難になったとき、(身内も含めて)サポートしてくれる人がいないと困ったことになる。

業者や家主はそういうトラブルを避けたいので、どうしても老人には部屋を貸し渋る。

それもわからなくはないけれど、借り手の側としては死活問題だ。

私はいま実家の持ち家に住んでいるけれど、将来的には実家をたたんで引っ越す可能性がある。他人事ではない。

「独居老人」はこれから確実に増えていくと思われるので、業者もそこをなんとか、もう少し柔軟に対応してもらいたい。

 

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私は実家に戻ってくる前は、とある地方都市で一人暮らしをしていた。

同じアパートに20年ぐらい住んでいたのだが、一時期、隣の部屋に70代ぐらいのおじいさんが独りで入居していたことがある。

隣人といってもまったくつきあいはなく、階段ですれ違うときに軽く挨拶をする程度の関係だったので、どういう人なのかはまったくわからない。まあ、アパート暮らしはそんなものだと思っていたので気にもならなかった。

ある日、チャイムが鳴ったのでドアを開けるとそのおじいさんが立っていて、部屋に入れてくれないかと言う。

相手の真意を測りかねて困っていると、ちょっと言いにくそうに、実はアパートの管理会社にドアをロックされて部屋に入れなくなったのだという。それで私の部屋からベランダ伝いに自分の部屋に入りたいというのだ。(ちなみにアパートは3階建てで、私たちの部屋は3階だ)

ベランダには部屋と部屋の間に薄いパーテーション(間仕切り板)があるのだが、前年の台風の時に何かがぶつかって下の方が割れて穴が開いている。本来なら管理会社に連絡して修理してもらうべきだったが、私は(たぶん隣人も)めんどくさくてそのままにしてあった。その穴を通って自分のベランダに行き、そこから室内に入るつもりらしい。

しかし、たしかに穴は開いているが、子どもならともかく、いくら痩せていても大人が潜り抜けるのは無理だと思われた。

私はそう言って、でも一応試してみますか? と(やんわりと)尋ねると、隣人はちょっと難しい顔をして「いや、やっぱりいい。すいませんでした」と言って帰っていった。自分でもちょっと無理があると思ったのだろう。

結局、管理会社に泣きを入れて開けてもらったようだ。

本人から直接聞いたわけではないけれど、閉め出しをくった原因はやはり家賃の滞納なのだと思う。

それから間もなくおじいさんは引っ越していった。たぶん退居させられたのだろう。

 

私はまだ若かったので、その一連の出来事に対して特になにも思わなかった。いや、正直に言えば、「歳をとってああはなりたくないな」という蔑む気持ちがあった。

しかし50歳になったいま、あのおじいさんはあの後どうしたのだろうと気にかかる。新しいアパートを探すのも簡単ではなかったはずだ。70を過ぎて住むところを失うなんて辛すぎる。誰か力になってくれる人がいたのならいいが。

ついつい未来の自分の姿を重ねてしまう。

明日は我が身か……。