何を読んでも何かを思いだす

人生の半分はフィクションでできている。

雪の日

 

雪が積もった。

私が住んでいる九州北部では、例年は雪が積もってもうっすら「雪化粧」という程度なのだが、今年は異常で、厚化粧もはなはだしい。

 

7日ぐらいから降り始め、8日の朝には辺り一面真っ白になってしまった。

その日はたまたま昼からの出勤だったのでまだよかったが、いつも通り早朝の出勤だったらどうなっていたことか。

数年前、やはりひどく雪が積もった日があって、その時は早朝からの仕事だったのだがどうすることもできず、やむを得ず歩いて職場に行った。バイクでなら10分あまりの道を、(雪道ということもあり)1時間半かけて歩いた。慣れないゴム長靴のせいで痛む足を引きずりながら。しかしもうそんなマネはできない。気力も体力もない。

 

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(11日現在。だいぶ溶けてきた)

 

それで8日、昼からおそるおそるバイクで出勤した。

家の周りはまだ長靴が埋まるほどの雪だったが、車が通る道はある程度雪が溶けていて、なんとか無事に職場にたどり着いた。

ところが勤務時間中にも雪は降ったりやんだりを繰り返し、仕事が終わって家に帰る頃にはまたしっかり積もってしまった。

賢明な人間ならバイクで帰ることを諦め、かろうじて動いていたバスで帰る選択をしただろう。しかし賢明ではない私はバイクで帰る選択をした。いろいろめんどくさかったので。

いやあ、怖かった。車が多い道はあえて避けて(ノロノロと走るので、後ろの車のプレッシャーが嫌なのだ)ほとんど人が通らない田んぼ道を帰ったのだが、何度か後輪が滑りそうになって、その度に冷や汗をかいた。家に着いたときには、寒さと緊張のために体がガチガチになっていた。

 

翌日の9日にはさらに雪が積もったのだが、幸い世間と同じ3連休だったので助かった。

それでほとんど家から出ることもなく現在(11日夕方)に至っている。

食料の備蓄は充分にあったので困ることはないのだが、あまりの寒さに布団から出られなくなっている。ご飯とトイレ以外はほとんど布団の中にいて、動画を見るか、さもなければ「ヤフオク」で絵葉書を物色するという体たらくだ。

「これではいけない。ダメ人間になってしまう!」と思って起きようとするのだが、「まだダメ人間じゃないつもりか?」と思い直して(?)また布団にもぐってしまう。 

せっかくの3連休が雪のために台無しだ、と言いたいところだけれど、雪がなくてもこんな感じだったかも……。

 

雪に遊ぶ近所の子どもの声聞きつ

われかたくなに布団から出ず

 

   

ショップ永田町

 

前回、帝国議会議事堂(現在の国会議事堂)を描いた絵葉書を紹介したのだが、そのときふと思った。

「いまでも国会議事堂を描いた絵葉書なんて売ってるんだろうか?」

さっそくネットで検索すると、こんなサイトに流れ着いた。

 

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衆議院グッズを扱う通販サイトショップ永田町

 

国会グッズ専門店? こんな通販サイトがあったのか……。

中を覗いてみると、「雑貨」「国会グッズ」「食品」「文具」「書籍」というカテゴリーがあったので、まずは「文具」をチェック。

するとやっぱり絵葉書を売っていた。まあ、なんというか、ずいぶんベタな感じの絵柄だが、これが「正解」なんだろう。絵葉書ではなくグリーティングカード(封筒の中に入れて送るカード)の方はちょっとおしゃれなデザインだ。このほかにはクリアファイルやノートなどがある。

 

続いて「書籍」を見てみるが、あまり興味を引くものはない。妙に高価だし。普通に「衆議院手帳」を売っているのに少し驚く。

「雑貨」のカテゴリーにはなぜか20種類以上の「名刺入れ」が並んでいる。どういうこだわりだろうか? 議員はまず名前を売るのが仕事ということだろうか。

 「食品」は、お土産には無難な選択だといえる。「スガちゃんまんじゅう」や「スガちゃんラングドシャ」も、パッケージはともかく中身はうまそうだ。

 

最後に「国会グッズ」を見てみると……歴代総理似顔絵入り湯呑み&マグカップ! お土産とかでもらったら、どんな顔していいかわからないヤツだ。しかも「美濃焼き」という、いたずらに高品質。

こういうグッズって誰が買うんだろうなあ。

たぶん議事堂の見学に行って、帰りがけにその場のテンションというか、ノリみたいなもので買ってしまうのではないかと思う。

自宅のパソコンの画面の前で、冷静に買うようなものではないような気がするが……。

 

いや、しかし、どんな物にもコレクターというのはいるから、「国会グッズコレクター」という人もいるかもしれない。

そういう人は、首相が代わって新しいグッズが作られると嬉々として買っているのだろう。

「この首相は在任期間が短そうだから、あとで希少になるかも……」

なんて考えながら。

  

 

絵葉書を読む(その2) 帝国議会

 

《絵葉書を読む》第二回目。今回採り上げる絵葉書はこちら。

『(帝国議事堂)衆議院議場』

 

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大日本帝国憲法の下、第1回の帝国議会が開かれたのが明治23年(1890)。しかしこの時はまだ正式な「帝国議会議事堂」はなかった。

正式な議事堂(現在の国会議事堂)が完成するのはそれから40年以上も後、昭和11年(1936)のことである。それまで議会が行われていた建物は、あくまでも「仮設」の議事堂という位置付けだった。(もちろん仮設といってもそれなりに立派な建物だったが)

上の絵葉書はその正式な議事堂の衆議院議場で、現在私たちがテレビの国会中継などで目にするものと大きな違いはないようだ。

……と、これだけならたいしておもしろい葉書ではない。わざわざ紹介するほどのものではない。

私が興味を持ったのは、この葉書の差出人である。

 

差出人の名前は秋田三一(さんいち)。

明治28年(1895)、山口県生まれ。熊本の第五高等学校を経て東京帝国大学法科大学を卒業。その後材木商、海運貿易、鉱業などを営む。

昭和14年(1939)貴族院議員に選ばれ、戦後の貴族院の廃止まで在任した。

つまり実業家にして政治家だった人だ。(Wikipedia参照)

帝国議会衆議院貴族院の二院制である。衆議院議員は一般から選挙で選ばれるが、貴族院議員は皇族や華族、帝国学士院会員、多額納税者など、俗な言い方をすれば「セレブな人たち」しかなれない。

この絵葉書は、その貴族院議員の秋田氏が帝国議会に出席するために上京した際、地元山口県の某氏に宛てた挨拶状なのである。

 

陳者今回第七十五帝国議会出席の為め着京、左記従来の仮寓に落着き申候間、何卒不相変御指導御鞭撻の程御願申上候。(以下略)

 

議会のために上京し、東京の別宅にいるので、近くにお越しの際はぜひお立ち寄りくださいといった内容だ。

文末の日付は「昭和十四年十二月十八日」。つまり秋田氏が議員になって最初の議会(通常会)出席ということになる。

その初めての議会出席の挨拶状を、普通の葉書ではなく、わざわざ議事堂を題材にした絵葉書で作るところが凝ってるなと思ったのだ。

文面は手書きではなく印刷してある(宛先宛名は手書き)ので、ある程度の枚数を作ったのではないかと思う。絵葉書自体は市販のものだろう。手間もお金も余計にかかったはずだが、その辺はさすがセレブというところだろうか。

初議会への意気込みが感じられる(ような気がする)。

しかしこの翌年、昭和15年(1940)にはすべての政党が解散して「大政翼賛会」 が成立し、議会は完全に形骸化してしまうのだが。

 

(今回は差出人が議員という公人・著名人であり、手紙の内容も当たり障りのない挨拶状ということで実名を明記した)

 

 

新年の挨拶 2021

 

あけましておめでとうございます

今年もよろしくお願いします

 

はてなブログ」で2度目の新年の挨拶になります。

昨年読んでくださったみなさん、ありがとうございます。今年もよろしくお願いします。

 

年頭にあたって、このブログの今年の抱負なり目標なりを述べたいところですが、これがまったく思いつきません。(笑)

なので、とりあえず、次の記事を書くことを目指そうと思います。

 

自分が書いた文章をどこかのだれかに読んでもらえることの「恍惚と不安」を感じながら、また一つずつ書いていきたいと思います。

 

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絵葉書を読む(その1) 関東大震災

 

前回の記事で予告したように、これからときどき購入した絵葉書を紹介していこうと思う。(飽きなければ)

その記念すべき第一回目はこちら。

『本所被服廠大正十二年九月一日大震大火焼死者納骨堂』

 

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第一回目にしてはテーマが暗すぎるような気もするが……。

 

関東大震災についてはいまさら説明の必要はないだろう。

本所(現在の墨田区南部)の陸軍被服廠跡地は最も多くの死者が出たところで、その遺体はその場で火葬され、遺骨は仮設の納骨堂に納められた。昭和5年(1930)には正式な慰霊堂が完成し、遺骨はそこに安置された。

その後、昭和20年(1945)の東京大空襲による犠牲者も合祀し、昭和26年(1951)「東京都慰霊堂」と改称し現在に至る。(Wikipedia横網町公園HP参照)

画像の絵葉書がいつごろ作られたものかはわからないが、表の通信文と消印から震災の2年後、大正14年8月31日に出されたものだとわかる。ということは、描かれている納骨堂は仮設のものなのか。

左の方に立ち並んでいる巨大な卒塔婆がすごい。

 

この絵葉書は東京在住の某君が三重県の友人に宛てたものだ。学校がどうこう言っているので、二人ともまだ若い。

通信文の一部を引用してみよう。(旧字・旧仮名などは適宜変更)

 

〔明日の〕大正十四年九月一日午前十時五十八分は、当日を記念し嘗とむらう為、全市に数え切れぬ程色々の催しがあります。大東京市中を走る電車でさえ一分間停車、即ち黙祷するんです。兎に角そのセツナには誰しも呪わしき日を思出すでしょう。

 

その一方で彼は「もう三分の一は一昔になったね」とも書いている。いわゆる「十年一昔」の3分の1だ。(実際には2年しか経っていないが、三回忌などと同じ数え方なのだろう)

そして手紙の最後にはまだ学校(進学先? 転校先? 就職先?)が決まらないと書いている。

未曾有の震災の記憶と、ぼんやりとした自分の将来。

この翌年には大正が昭和に変わり、世の中は大きく動いていく……なんてことは、彼はまだ知らない。 

 

絵葉書というと風光明媚な観光地の写真が思い浮かぶが、昔の絵葉書には時事ネタというか、社会的なテーマのものも多い。

どうやら私はそういうものに興味があるようだ。

 

 

絵葉書を読む(序)

 

以前、「アンティーク絵葉書を集めてみたい」というようなことを書いた。

  

paperwalker.hatenablog.com

 

ずっと保留にしていたのだが、最近になってポツリポツリと集め始めている。

まだ趣味といえるものではなく、これから趣味になるかどうかというぐらいの段階で、方向性というか、自分が何をおもしろいと思うのかを手探りしている感じだ。

 

上の記事でも書いているけれど、私は未使用の葉書よりも実際に郵便に使われたもの(実逓便)が好きで、いまのところ買った数枚の葉書はすべて使用済のものだ。やっぱり切手と消印に風情を感じる。

それに加えて、使用済の葉書のおもしろいところは、通信文が読めるところである。私は、買った葉書の通信文はできるだけ読むようにしている。

100年近く前の葉書とはいえ、人さまの手紙を読むのは倫理的にいかがなものかと思わなくもないが、そこはまあ「時効」みたいなものではないかと勝手な理屈をつけている。しかし「盗み読み」には違いないわけで、あまり上等な趣味とはいえないかもしれない。「密やかな愉しみ」といったところか。

 

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ところが「できるだけ読む」とは言ったものの、これがなかなか難しい。

楷書で書いてあればいいが、崩し字や続け字で書かれている文章は難物で、前後の文意から考えてああでもないこうでもないと散々頭をひねり、それでも判読できなかったりする。ちょっとした古文書解読みたいなものだ。

達筆なのか悪筆なのかさえわからないような字を見ると、これでは手紙をもらった人も読めないのではないかと余計な心配をしてしまうが、読めるんだろうなあ、昔の人は。

漢字の崩し字はもちろん、ひら仮名だって難しい。現代とは違う字(いわゆる変体仮名)が使われていることもある。

たとえば〈の〉。私たちが現在使っている「の」は漢字の「乃」が元になっているが、これとは別に「能」が元になった(下の画像のような)〈の〉もある。

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これなんかほとんどウルトラマンが使う「ウルトラ文字」にしか見えない。(若い人にはわからないか……)

もちろん〈の〉だけでなく、ほかのひら仮名にもバリエーションがある。こういう変体仮名は、明治・大正・昭和と時代が新しくなるにつれて(少なくとも印刷物からは)消えていったと思うが、個人の手書きの文章の中では昭和10年代でも現役のようだ。(もちろん書き手の年齢にもよるだろうが)

 

そうやって苦労して解読した文章に、昔の人の個人的でささやかな生活が浮かび上がってくる。それがおもしろい。(やっぱり悪趣味だろうか?)

このブログでは、今後ときどき購入したアンティーク絵葉書を紹介したいと思っている。

興味を持ってもらえれば嬉しいが、さて、どうなることか。

この(序)だけで終わったりして……。

 

 

シャーロック・ホームズの冒険

 

最近憂国のモリアーティ』というアニメを見ている。

 

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これは『シャーロック・ホームズ』を原案にしているのだが、主人公はホームズの宿敵モリアーティ教授で、なるほど、そういう視点があったかと思わされる作品だ。

原作の漫画の方も読んでみたいのだが、それに加えて久しぶりにシャーロック・ホームズのことが気になっている。

 

とはいえ、小説としてはかなり昔に2、3冊読んだだけで、私にとってのホームズはなんといってもイギリスのグラナダテレビが制作した、ジェレミー・ブレット主演のドラマシャーロック・ホームズの冒険である。これに尽きる。

あの風貌、動き、話し方。ホームズの奇人ぶりを見事に表現していて、まさしく「本物」のホームズだと思ってしまう。(虚構の人物に本物というのもおかしな話だが)

まあ、私ごときホームズ素人が力説しなくても、この作品が映像化されたホームズのベストだというのは衆目の一致するところだと思う。

制作の途中からジェレミー・ブレットの体調が悪化して、後期にはクオリティが落ちたなどとも言われるが、それでもやっぱりこの作品がベストだということには変わりない。

なんというか、イギリス人が本気で作ったシャーロック・ホームズという感じがする。

 

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もっとも私が実際に見ていたのはNHKで放送された吹き替え版で、そのときホームズの声を担当したのが俳優の露口茂さん。( 私の世代だと『太陽にほえろ!』の「山さん」といったほうがわかりやすいかもしれない)

あの少しくぐもったような声が不思議とホームズに合っていた。

実はいま、いつも利用している動画配信サービスでこのグラナダ版のシリーズを配信しているのだが、こちらは吹き替え版ではなく「字幕」のほうで、もちろん喜んで見ているけれど、あの露口さんの声のホームズをもう一度見たい。

ほかのドラマや映画もそうだが、よくできた吹き替え版にはそれ独特の良さがある。

 

以前、何度かDVDの購入を考えたこともあるのだが、全巻買うと(中古でも)さすがにけっこうな金額になってしまい、いつも二の足を踏んできた。

もう一度、来年の「セルフお年玉」ということで検討してみようかな。

 

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今週のお題「もう一度見たいドラマ」

先週のお題「自分にご褒美」