何を読んでも何かを思いだす

人生の半分はフィクションでできている。

人まかせ

 

前回、ショーン・バイセル『ブックセラーズ・ダイアリー』という本について書いた。

著者はスコットランド最大の古書店「ザ・ブックショップ」の店主なのだが、その店でちょっとおもしろいサービスを行なっている。

それは「ランダム・ブッククラブ」というもので、年会費59ポンド(1ポンド=約150円として約8850円)を払ってクラブの会員になると毎月1冊古書が送られてくるという企画である。

 

おもしろいのは、会員は送ってもらう本に対して一切リクエストをすることができず、バイセル氏自身がランダムに本を選んで送るというところだ。

ジャンルも選択できないので、普段小説しか読まないような人にノンフィクションが送られてきたり、歴史関係の本しか読まない人に詩集が送られてきたりすることもあると思う。というか、バイセル氏は意図的に送る本のジャンルを散らしているようでもある。

「会員がみな並外れた本好きであることは確かだから、本を読むという行為そのものを楽しむ人に喜ばれそうなものを選ぶことにしている」(p.18)とバイセル氏は言っている。

筋金入りの本読みは、どんなジャンルの本でもそれなりにおもしろく読むことができるということだろうか。

本を選ぶ方と送ってもらう方に信頼関係があるから成立しているとも言える。

 

一年分(12冊)が59ポンドということは一冊あたり約5ポンド、750円ぐらいの古本ということか。このくらいの値段なら、ちょっと「はずれ」でもまあいいかと思える、かな?

ちなみにこのブッククラブには海外からも入会できる。もちろん日本からでもOKだ。(送料は高くつくが)

ちょっと入会してみたいような気もする。英語さえできれば。

 

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話は少し違うが、最近は「選書サービス」をする新刊書店のことをよく耳にする。

これはお客さんから5千円や1万円といったまとまった金額をもらって、書店の店主やスタッフがその人に合いそうな本を選んで送ってくれるというサービスだ。この場合は事前にお客さんにアンケートをとってその好みを知り、それを踏まえて選書するのである。

本好きには名前を知られた店主や店が自分にどういう本を選んでくれるのか、たしかに興味あるところだ。

古本でも、京都の「善行堂」さんが昨年そういう選書サービスを行なって話題になった。いまもまだ募集しているのだろうか?

 

新刊でも古本でも、私はまだそういう選書サービスを頼んだことがない。

前にも書いたけれど、本というのは個人の趣味嗜好が強く出るものなので、自分の目で選ぶのが基本だ。

でも、たまには「他人の目」で選んでもらうのもいいかもしれない。自分の目だけでは見えないものが見えるかもしれないから。

 

人に本を選ぶというのはとてもデリケートな行為だと思う。

たぶん、相手のことを知れば知るほど難しくなるのではないだろうか。むしろ相手の情報が少ない方が適当に選べるような気がする。

選んでもらう方もけっこう気をつかうかもしれない。選んでもらって「うーん、イマイチですね」とは言いにくいし。

いずれにしても、選ぶ方も選んでもらう方も、多少の「はずれ」は覚悟しておかなければならないだろう。

そういう「はずれ」も含めておもしろいと思えるような心の広い本好きなら、一度頼んでみるのもいいと思う。

私も、心と財布に余裕があるときに頼んでみたい。