何を読んでも何かを思いだす

人生の半分はフィクションでできている。

本があって、人がいて

 

片岡喜彦『古本屋の四季』皓星社、2020)を読んでいる。

 

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片岡さんは神戸市にある「古書片岡」の店主。10年前、定年退職を機に古本屋を開業した。この本はその10年間の軌跡を綴ったもので、片岡さんが同人になっている雑誌に発表してきた文章が元になっている。

 

本好き、古本好きの人なら、一度は自分で古本屋をやりたいと思ったことがあるかもしれない。

会社員なら、定年後の第二の人生として考える人もいるだろう。しかし、かなり本気で考えていても実際に行動に移せる人は少ない。理由はいろいろあるだろうが、やはり経済的な問題が大きいと思う。いまの時代、古本屋が「商売」として厳しいというのは、私のような素人にも察しがつく。開店することはできても、続けていくことは難しいだろう。

もちろん片岡さんもそれを承知で開店に踏み切った。

この本ではときどき店の経営についての記述もあって、たとえば最近(2018年)ではこんなことが書かれている。

 この夏季の売り上げは恥ずかしながら、6月が2800円、7月が2600円、8月が3万3950円、9月が2万1270円でした。開業以来、相変わらずの低空飛行でした。売り上げは低くても必要経費は店舗家賃、組合費、光熱、通信費で毎月約4万5000円プラス仕入れ費、車の維持費も要り、総計7万円前後になります。(……)

(中略)

 こんな営業状態ですから開店時に退職金から開店準備と運営資金として貰った400万円と追加の20万円が、9月30日現在35万4878円になってしまっています。開店10周年を目前に「風前の灯火」状態です。(p.227)

ここまで赤裸々に公表して大丈夫かと思うけれど、とにかく厳しいということはわかる。

 

なんだかお金の話ばかりしてしまったけれど、私が言いたいのは、そんな「商売」としては割に合わない古本屋を片岡さんが10年間続けてきたということだ。

片岡さんは自分の古本屋を「道楽」だという。

 わたしは道楽で古本屋を始めたという思いがありますので、10年ほど古本屋として楽しめれば、わが人生の締め括りができると思っています。(……)ただ口コミで人が集い、本が集まってくるような、そんな店にできないものかと思っています。(p.25-26) 

なるほど、お金を稼ぐための「商売」ではなく、お金を払ってでもやりたい「道楽」というわけか。

では片岡さんにとってそんな「道楽」の魅力、古本屋の喜びとはなんだろう? 

それはたぶん、本を介して人と繋がるということではないかと思う。そのために古本屋という「場」が必要なのだ。

この本には、本そのものについてより、本を介して出会ったさまざまな人たちについてより多く描かれている。

片岡さんはきっと本以上に人が好きなのだと思う。(そこが私とは違う)

ちなみに「古書片岡」のシャッターにはこんな言葉が書かれているという。

 

「本好きの 人・本・心 つなぐ店」