何を読んでも何かを思いだす

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絵葉書を読む(その8) もんぺ

 

『絵葉書を読む』第8回。今回の絵葉書はこちら。

『モンペ』中原淳一

 

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「もんぺ」は、主に農山村の女性の仕事着として古くからあった袴状の着物である。(名称や細部の仕様は地域によって異なる)

この「もんぺ」が広く全国的に知られるようになったのは戦時中のこと。

いわゆる戦時体制になると、女性の和装が非活動的であるとしてその改革が議論されるようになった。その改革案の一つとして「もんぺ」が奨励されたのである。

もっとも昭和10年代の前半においては、奨励されただけで義務化されたわけではない。都市部の女性からの評判も悪く、実際にはあまり着用されなかったようだ。

しかし太平洋戦争が始まり、生活が次第に困窮してくると、男性の「国民服」と同じように女性は「もんぺ」を着用することが義務のようになっていった。私たちは、戦時中の女性は常にもんぺ姿のようにイメージしがちだが、それは戦争も後半になってのことだ。

 

画像の絵葉書は、若い女性に絶大な人気があったイラストレーター、中原淳一によるもんぺ姿の女性である。『少女更生服絵はがき』と題された絵葉書セットの中の一枚だ。(更生服とは、手持ちの服をリメイクして作った服のこと)

「もんぺ」というよりはオーバーオールみたいで、ポケットもついている。上に着ている服も、和服ではあるが袖が絞られていてシャツのようになっており、靴もスニーカーっぽい。

限られた条件の中で、なんとか工夫して少しでもオシャレに、ということだろうか。

 

差出人は新潟のある村の女性、宛先は「舞鶴海兵団」所属の男性である。(□は判読不明)

 

日に増し暑さを加はり、しのぎがたい時節と成りましたね。其の後貴男様には、お変り成く[ママ]軍務致して居る事とお察し致します。

私も相変らず元気で増産に励んで居りますから、何卒御安心下さい。故郷は、早あの忙しい田植も過ぎ、□□□□も過ぎ去って今は、田の草取りで一生県[ママ]命です。明日から又、励みませう。そして、貴男様の凱旋の日が一日も早く参りますやう祈り上げます。

 

宛名人の男性は苗字が違うから、家族というわけではなさそうだが、文面から同郷の人だと思われる。

ちなみに葉書の消印の日付は「昭和20年7月7日」

あとひと月もすれば終戦となるのだが、もちろん彼女はそんなことは知らない。先の見えない日々を懸命に生きている。

宛名人の男性も、「凱旋」はできないにしても、無事に故郷に帰れただろうか。