何を読んでも何かを思いだす

人生の半分はフィクションでできている。

家を建てる

 

去年の夏にこんな記事を書いた。

paperwalker.hatenablog.com

私が住んでいる地区の古い家が解体されたという、ただそれだけの話である。

 

その家の跡地はしばらく放っておかれて雑草だらけになっていたのだが、今年に入ってからきれいに整地された。その際に、膝の高さぐらいの低いブロック塀で土地が三分割されていた。

解体されているときにはそれほど広いと思わなかった土地も、更地になるとけっこうな広さがあって、持ち主(不動産屋?)はそれを分割して売るつもりらしかった。

しかしそれからまたしばらくはそのまま放置されていた。

 

 

ところが6月のある日曜日、仕事に行くときにその土地の前を通ると、3つの区画のうちの1つに人が集まっているのが見えた。

しかもなにやら学校の運動会で使うようなテントが設置されて、パイプ椅子や長机まである。何事だろうと思ったが、そこに神主の格好をした人がいるのを見つけて「ああ、地鎮祭か」と納得した。

パイプ椅子には30代ぐらいの若い夫婦が座っていた。その横には就学前ぐらいの男の子と女の子が退屈そうに座っている。この家族がここに家を建てて住むということらしい。

もともとこの地域に縁がある人なのか、それともまったく新規の移住者なのか、私が知るはずもないけれど、この地域に新しく家を建てて住もうという人がいることが意外だった。この辺りは人が出ていくばかりだと思っていたので。

 

それからは通勤のときに家ができていく様子をそれとなく眺めている。

まず土台ができて、柱や骨組みができて、壁ができて、いまではだいたい家の形ができている。こじんまりとした平屋の家で、居間や台所、風呂、トイレなどの生活空間を除いたらあと二部屋ぐらいといった感じだ。ちょっと手狭かなとも思うが(大きなお世話だ)、小さい子どもがいる4人家族だったらそのくらいの大きさがちょうどいいのかもしれない。

ふと、あの若いお父さんはいまどんな気分なんだろうと思う。

(時代錯誤な言い方かもしれないが)一家の大黒柱として感慨無量といった気分だろうか。それとも、背中に何か重い荷物を背負ったような気分だろうか。

いずれにしても私が生涯味わうことのない気分なんだろうなと思う。

 

まあしかし、なにはともあれ、30代で自分の家を建てるというのはたいしたことに違いない。立派なものだ。

私が30代の頃といったら……家賃を滞納してアパートを追い出されそうになってたな……。(うん、ダメ人間すぎる)