ふと、ある言葉を思い出した。
20年ほど前の缶コーヒーのCM。
そのCMには、松田優作の『探偵物語』の映像と台詞が使われていた。その台詞。
「人間てのはさ、なんかこう、冗談だか本気かわからないギリギリのところで生きてるんじゃないかしら」
人生なんて悪い冗談に過ぎない、とうそぶいて、現実から一歩退いた感じで生きていくのも一つの処世術だ。そうすれば、嫌なことも受け流せるし、傷つくことも少なくて済むかもしれない。
しかしその一方で、人生を主体的に、本気に熱く生きてみたいという気持ちも、ないことはない。
冗談のない人生はつまらないが、冗談ばかりの人生もちょっと虚しい。
だとすれば、文学というものも、人間のそういう「冗談だか本気かわからないギリギリのところ」から生まれてくるものなのかもしれない。
そんなことを考えた。
(補記)ちなみにこの台詞は、『探偵物語』第6話「失踪者の影」の中のものらしい。なんでも調べられる時代になったもんだ。