何を読んでも何かを思いだす

人生の半分はフィクションでできている。

祝日会議 ④

 

(前回の続き)

擬人化された祝日たちによる『祝日会議』。前回までの記事はこちら。

祝日会議 ① - 何を読んでも何かを思いだす

祝日会議 ② - 何を読んでも何かを思いだす

祝日会議 ③ - 何を読んでも何かを思いだす

 

 

今回の会議も無事に終わり、祝日たちはそれぞれ帰り支度をしながらお茶を飲んだり雑談をしたりしている。

「『憲法記念日』さん、今回もお疲れ様でした」

「ああ、体育……じゃない、『スポーツの日』さん、お疲れ様でした。そうやって労ってくれるのはあなただけですよ」と苦笑しながら「でも、今回一番驚いたのは、やっぱり『スポーツの日』さんの金髪ですね」

「いやー、やっぱり似合わないですかね、これ?」

といって「スポーツの日」は恥ずかしそうに頭を掻く。

「いえいえ、そんなことはないですよ。そういうのもいいかなと思います。(小声で)『文化の日』さんは気に入らないかもしれませんが……。でも、真面目な話、時代は変わっていくわけですから、私たち祝日も旧態依然というわけにはいかないのかもしれません。伝統を守るのも大事ですが、変えるべきところは変えていかないと……」

 

「なになに? 『憲法』さんもイメチェンするっスか?」

話に入ってきたのは「海の日」である。

「『憲法』さんも金髪にしてみます? いいとこ紹介するっスよ」

憲法記念日」は苦笑して、

「ははは、さすがに金髪は無理ですけど、そうだなあ、私も少しその『イメチェン』というのに挑戦してみようかな」

「そうっスよ、そうっスよ。いいじゃないスか。あ、でも、『憲法』さんがイメチェンしたら、これがホントの憲法改正……なんつって」

その瞬間、なごやかだった会議室の空気が凍りつき、全員が動きを止めて「海の日」を見た。

憲法記念日」が静かに、しかし重々しい声で繰り返す。

憲法…改正……だと?」

そのただならぬ雰囲気に、お気楽な「海の日」もさすがに異変を感じて、

「あ、あれ? 俺なんかマズいこと言っちゃったっスか?」

「バカ! それは禁句……」と誰かが言ったがもう遅い。

「許さんッッ! それだけはァァァ、許さんぞォォォ!! 」

春風のように穏やかだった「憲法記念日」の表情が一変し、悪鬼の形相となって「海の日」に襲いかかる。

「うわぁ! なんスか!? 」

「この人にそれだけは言っちゃダメなんだよ!」

「『憲法』さん落ち着いて!」

「あ痛、無礼者!」

「ゆーるーさーんーぞぉぉぉ!!! 」

もはや暴走状態の「憲法記念日」は、誰彼の見境なくつかみかかる。

「誰か『憲法』さんを止めろ!」

「おやおや」

「ダメだ! 手がつけられん! みんな逃げろ!」

祝日たちは会議室を飛び出して、「憲法記念日」もそれを追いかけていく……。

 

嵐のような時間が過ぎて、会議室にはもう誰も……いや、まだ1人だけ椅子に座っている。

最長老の「元日」だ。この人はあの騒動の中でもずっと居眠りを続けていたらしい。

ようやく目が覚めた「元日」は、まわりに誰もいないのに気づいたが、別にあわてる様子もなくのろのろと立ち上がり、何事もなかったようにゆっくりと部屋を出ていった。

 

自由と平和を求めてやまない日本国民は、美しい風習を育てつつ、よりよき社会、より豊かな生活を築きあげるために、ここに国民こぞつて祝い、感謝し、又は記念する日を定め、これを「国民の祝日」と名づける。

(「国民の祝日に関する法律」第一条)

 

ニッポンは今日も平和です。

 

(おわり)

 

 

長々と馬鹿馬鹿しい話につきあっていただき、ありがとうございました。