何を読んでも何かを思いだす

人生の半分はフィクションでできている。

祝日会議 ②

 

(前回の続き)

擬人化された祝日たちによる『祝日会議』。前回の記事はこちら。

祝日会議 ① - 何を読んでも何かを思いだす

 

 

「それはあたしのことですか!? 」

トゲのある女性の声が飛んできた。「みどりの日」である。

「ただ休日を増やすためにできた意味のない祝日というのは、あたしのことですか!? 」

と言って、キッと「勤労感謝の日」を睨む。その目にはうっすらと涙が滲んでいる。

「い、いえ、そういうつもりは……」あわてて弁明する「勤労感謝の日」を無視して「みどりの日」は続ける。

「そりゃあね、あたしだって薄々はそう感じてましたよ。『天皇誕生日』が12月に移動して、4月29日がぽっかり空いたんで、とりあえず、みたいにつくられたのがあたしですよ。それが今度は4月29日を『昭和の日』にするからといって5月4日に飛ばされて……。あたしはそんなに軽い女ですか? そんなに都合のいい女ですか? どうせあたしなんか、あたしなんか……」

といって机に突っ伏して泣き始める。どうやら彼女はしゃべりながら興奮していくタイプのようだ。

「ま、まあ『みどりの日』さん、落ち着いて……」と「憲法記念日」がなだめる。

「そうですよ。5月4日は大事な日なんですから」と「勤労感謝の日」もフォローする。

 

「あー、でも僕ぁ『みどりの日』さんの気持ちがわかるなあ」

と言い出したのは、それまで黙っていた「山の日」である。チェックのネルシャツを着た若い男で、岩のように筋骨隆々としている。

(馬鹿、よけいなことを言うんじゃない!)という「憲法記念日」の目配せにもかかわらず、「山の日」は独り言のように続ける。

「僕なんて、ただお盆休みを前倒しするためにつくられたのが見え見えじゃないですか? 別に『山の日』じゃなくても、なんでもよかったんでしょう? ぼくに存在意義なんてあるのかなあって、ときどき思いますよね。いや、それ以前に、僕の存在ってちゃんと国民に認知されてるんですかねえ?」

と、マッチョな容姿に反してネガティブなことをネチネチと言っている。

「『海の日』さんもそう思いませんか?」と話を振ると、急に名前を呼ばれた「海の日」はちょっと驚いたものの、

「俺っスか? 俺は楽しけりゃなんでもいいっスよ」

こっちはポジティブなのか、なにも考えてないのか……。

 

「そうそう、楽しいのが一番だよ!」

その場違いな幼い声に、思わず全員が注目する。

声の主はこの場にまったく不似合いな小学生である。もちろん「こどもの日」だ。

「僕たちの存在意義なんて二の次でいいんだよ。一番大切なのは国民の幸せでしょ? 国民一人一人が僕たちを有効に使ってくれれば、それでいいんだよ」

小学生の口から「大人の意見」が出たので、ほかの祝日たちは黙ってしまう。

憲法記念日」はこの機を逃さずに「さあ、みなさん。議題に戻りましょう」と促す。

休憩時間になった時、「憲法記念日」はそっと「こどもの日」に近づいて、

「『こどもの日』さん、さっきはどうもありがとうございました」

「なにが? 僕は思ったことを正直に言っただけだよ。だって子どもだもん」

「またまた。外見が子どもなのは設定上のことで、本当の年齢は私とたいして変わらないじゃないですか。見た目は子ども、中身は大人のくせに」

「コナンくんみたいに言わないで!」

 

(つづく)