何を読んでも何かを思いだす

人生の半分はフィクションでできている。

祝日会議 ①

 

前回の記事の最後に、「もし祝日に人格があったら」と書いた。

最近の祝日 - 何を読んでも何かを思いだす この思いつきが気に入ったので、こんな話を作ってみた。

題して、擬人化された祝日たちによる『祝日会議』

よかったらご笑覧ください。

 

 

ここは国会議事堂の一室。今日は4年に一度の「祝日会議」の日である。

大きなテーブルを囲んで、十数人の「祝日」たちが席に着いている。

まず最初に、紋付袴を着て仙人のような白い髭をたくわえた老人が開会を宣言する。

「あー……それでは……えー……『祝日会議』を……始めます」

絞り出すようにそう言うと、老人はストンと椅子に座ってすぐに居眠りを始めた。彼の今日の仕事はこれだけだ。祝日の中でも最長老の「元日」である。

すると、髪をきっちり七三に分けた黒縁眼鏡の実直そうな年配の男が立ち上がり、後を続ける。

「それでは、今回も私『憲法記念日』が司会進行を務めさせていただきます。いつものようにみなさんには、現在の祝日運営における問題点などを提起していただくわけですが……その前に、昨年はオリンピック・パラリンピックという大きなイベントがありましたので、それについて『体育の日』さんの方から報告を……あれ? 『体育の日』さん? 『体育の日』さんは欠席ですか?」

「あ、あの……」と言って立ち上がったのは、髪を金色に染めた若い男性である。

「えっと、あなたはどなたですか……って、『体育の日』さん!?   どうしたんですか、その髪? あなた、たしか黒髪の坊主頭だったはずでは?」

「はあ。自分、今度『体育の日』から『スポーツの日』に名前が変わりまして、それにオリンピックということもあって、その、少しイメチェンを……」

と言って、隣に座っている日に焼けたサーファー風の若い男をチラッと見る。どうやらイメチェンは「海の日」の入れ知恵らしい。

「めっちゃ似合ってるっスよ」

「海の日」はGOOD!と親指を立ててみせる。すると、

「けしからん」

低く重みのある声が場の空気を緊張させる。やはり紋付袴を着た長老格の「文化の日」である。さすがに明治天皇の「天長節」(天皇誕生日)だっただけあって威厳がある。

「そもそも日本男児たるもの……」と続けようとしたところを、「憲法記念日」がさえぎって、

「ま、まあ、『文化の日』さん、お気持ちはわかりますが、議題が進みませんのでそれはまた今度ということで……」

文化の日」は「フン」と言って腕組みをして目をつむる。

 

「ええと、それで『体育の日』、じゃなかった、『スポーツの日』さんはオリンピックの関係で昨年と一昨年は10月から7月にに移動したんですよね。ご苦労様でした。なにか問題はありませんでしたか?」

と「憲法記念日」が言うと、

「問題があります!」

と答えたのは、「スポーツの日」ではなく永遠の20歳「成人の日」だった。

「どうしたんですか『成人の日』さん、いきなり?」

「祝日の移動は問題だと言ったのです!」

「成人の日」は勢いよく立ち上がり、両手をテーブルについて「青年の主張」よろしく熱弁をふるった。

「オリンピックのような特例はまだしもですが、議長、あの『ハッピーマンデー制度』とかいうのはなんとかなりませんか!?  私は制定以来ずっと1月15日でした。ところがあの制度ができてから、1月の第2月曜などという曖昧で不安定な立場になってしまいました。『スポーツの日』さんや『敬老の日』さんだってそうです。しかもその理由が連休を増やすためだなんて。いったい、祝日の日付がそんなに流動的でいいのでしょうか!?   扱いがぞんざい過ぎやしませんか!? 」

「『ハッピーマンデー制度』もそうですが」と話に入ってきたのは、なんとなく地方公務員を思わせる「勤労感謝の日」だった。

「どうも最近は祝日というもの自体の意味が軽くなっているような気がしますね。とりあえず休日にしておけばなんでもいいだろう、みたいな」

 

(つづく)