いつものように「ヤフオク」を散策していてこんなものを買った。
『実用邦文タイプライター教科書』(龍成社)
「邦文タイプライター能率研究社」というところが編纂した100ページ余りの薄い本で、たぶん昭和26、7年ごろに出版されたものだ。
前半の30ページで邦文タイプライターの構造や使い方が説明されていて、残りのページは実習用の例文が(簡単なものから難易度の高いものへ順に)掲載されている。
邦文タイプライター、あるいは和文タイプライターといっても、若い人には何のことかわからないかもしれない。いや、私だって実物を見たことがあったかどうか。
しかし80年代に日本語ワープロが登場するまでは、公式な文書はこの和文タイプライターを使って作られていたのだ。
(初期の和文タイプライター)
和文(邦文)タイプライターは1915年(大正4年)、杉本京太によって発明された。(それ以前にも別の方式で特許は取られていたが、広く実用化できたのは杉本のものが最初)
下部の「箱」のようなものに入っているのは活字で、使用頻度によって一級文字、二級文字、三級文字、予備文字に分けられている。全部合わせると標準タイプでも3000字ほどになる。
上部の機械と下部の文字盤を動かして一字一字活字を探し、レバーを押してその活字を拾い、同時にシリンダーに巻き付けた紙に印字(縦書き)していくのである。
日本語で使用する文字は膨大なためこういう方式が採用された。欧文タイプのように文章を考えながら打つようなものではなく、あくまで清書のための機械である。
この教科書によると、一分間に35文字以上打てなければ一人前とは言えないようだ。
しかしそう説明されても、具体的にどういう構造で、実際にどう動くのかが想像できない。
何かいい資料はないかとYouTubeで「和文タイプライター」を検索してみると、いくつかの動画が見つかった。なんでもあるな、YouTube。
その中に和文タイプライターの構造をCGを使って説明している優れものの動画があった。
これをみるとどういう構造になっているのかよくわかる。
また次の動画は1930年(昭和5年)に行われた和文タイプライターのコンテストの様子を映した記録映像(着色・補正)である。(なぜか屋外で開催されている)
当時は女性の職業が限られていたので、和文のタイピストになりたいという女性は多かった。タイピストを養成するための専門の女学校まであったという。
それだけ技術の熟練を要する機械でもあった。
……という文章を、私はいま、タブレットのタッチパネルをポチポチ打ちながら書いている。もちろん特別な技術は必要ない。
和文タイプライターの発明から100年余り、書くための機械もずいぶん進化したものだ。
もっとも和文タイプライター自体も独自に進化していたので、昭和後期のモデルなどは初期のものに比べてずいぶん使いやすそうに見える。あのまま独自進化を続けていたら、ガラケーみたいに「ガラタイ」とか言われたのかもしれないなあ。
さて、この文章を読んだ人のなかで、実際に和文タイプライターを使ったことがある人が何人いるだろうか?