何を読んでも何かを思いだす

人生の半分はフィクションでできている。

絵葉書を読む(その4) えずこ

 

『絵葉書を読む』第4回。今回の絵葉書はこちら。

『東北風土記 東北娘独特の風俗「エヅコ」』

 

f:id:paperwalker:20210201232102j:plain

 

写真の部分を拡大したのがこちら。

 

f:id:paperwalker:20210201232202j:plain

 

この赤ん坊がすっぽり入っている籠のようなものが「えずこ」(えづこ)である。

赤ん坊を寒さから守るためのもので、稲わらを編んで作られている。

東北地方全般に見られたものらしいが、名前が地域によって多少違っていて、「えじこ」「いじこ」「いずめこ」「えんづこ」などとも呼ばれている。

昔は(東北の)どこの農家にもあったが、1950年代の後半ぐらいから見られなくなっていったという。

古い絵葉書には、こうした現代では失われた風習・風俗が描かれているものもあって興味深い。

ちなみに山形県庄内地域鶴岡市には「いずめこ人形」という工芸品かがあって、その姿を現代に伝えている。

 

f:id:paperwalker:20210204001340j:plain

 鶴岡市の「いずめこ人形」(画像はウェブサイト「山形県ふるさと工芸品」から借用)

 

それでは表の通信文を読んでみよう。(旧字は適宜改めた。□は読めなかった文字)

 

既に御承知の「エヅコ」を御紹介致します。

秋田市へ参りました。この夏には版画のなかなかよいのがあり(絵葉書)ましたので、探しても、一寸やそっとでは今は見[つ]かりも致しません。

これから□□へ廻ります。車中、倉田氏、農の民俗学を読破したいと思って見て居りましたが、十頁程□□進行度です。

「国光」が□しく車窓へ飛び込みました。匆々。

秋田ー大館間 車中にて

 

差出人は秋田に来ていて、そこでこの絵葉書を買い求め、移動の車中で書いたものらしい。(国光〔こっこう〕はリンゴの品種のことだと思うが、読み違いかもしれない)

興味深いのはこの葉書の宛先だ。「東京都西ヶ原町」にある「農事試験場」の某様宛になっている。

農事試験場は、現在でいう農業試験場であり、農作物の品種改良や効率的な農法などを研究するところである。おそらく宛名の某氏はそこに勤めている人なのだろう。そういう職業柄、地方の農村の風習・風俗にも関心を持っているのではないだろうか。

差出人も『農の民俗学』などという本を読むくらいだから、なにか農業に関係した仕事をしているのかもしれない。

 

なんとなくのんびりとした内容の手紙だが、消印の日付は昭和19年11月9日。

絵葉書の表には、目立たない小さな薄い字ではあるが、「国策に副ふて備へよ 身と心」というスローガンが印刷されている。

 

(「えずこ」に関しては 酒井惇一氏による下記のコラムを参照させていただいた)

 子守用のわら工品・「えずこ」【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第100回|昔の農村・今の世の中|コラム|JAcom 農業協同組合新聞