何を読んでも何かを思いだす

人生の半分はフィクションでできている。

絵葉書を読む(その3) 修学旅行

 

『絵葉書を読む』第3回。今回の絵葉書はこちら。

『(福博名勝)大濠公園

 

f:id:paperwalker:20210116103918j:plain


福岡市にある大濠公園を描いた、多色刷りの美しい絵葉書だ。

かつて福岡城の外濠だったこの土地は、昭和2年(1927)の東亜勧業博覧会を機に整備され、昭和4年(1929)に大濠公園として開園する。(後述するように)この絵葉書は昭和14年に差し出されたもので、開園して10年、まだ「新名所」と言っていい頃の風景だ。

 

しかし今回の話は大濠公園には直接関係はない。

私の興味をひいたのは表の通信文である。以下はその全文。(旧字旧仮名は適宜改めた。文中の太字は引用者による)

 

拝啓、先日は御葉書難有(ありがたく)受取りました。早速返事致す所、試験、就残におわれるまま失礼、御許し下さい。

六月八日午後五時四十八分大阪発にて九州廻遊修学旅行の途に上る。

健康状態も好調。筥崎宮太宰府天満宮に詣で、唯今長崎着。以後、雲仙、阿蘇、霧島等に行く予定。帰路は別府より海路大阪に戻ります。

又何か夏季休暇には出掛け度いと考えて居ます。

乱筆御許し下さい。

 

差出人は大阪あたりの学校の先生ではないかと想像する。 いまは生徒を引率して九州に修学旅行に来ているという状況ではないだろうか。

 

日程をもう一度整理してみよう。

6月8日、午後5時48分、大阪発。この時間に出発ということは、最初の夜は車中泊ということだろうか。

翌日、福岡着。その足で筥崎(はこざき)宮と太宰府天満宮に参拝。(筥崎と太宰府の間もけっこう距離があるのだが)

午後、長崎着。差出人の住所欄に書いてある「大宝館」という旅館かホテルに投宿し、一息ついてこの葉書を書き、ポストに投函した……と、こんな感じだろうか。

葉書の消印は「長崎/14.6.9/后8-12」、つまり昭和14年6月9日午後8時から12時である。

出発からちょうど丸一日が経っている。というか、一日でこの移動はかなりの強行スケジュールではないのか? このあとぐるっと九州をまわるようだが、この分では残りの旅程もあわただしいものになりそうだ。

旅の情緒を感じる暇もなさそうだが、修学旅行なんてそんなものかもしれない。

 

福岡で買った絵葉書を、長崎に着いて(書いて)出す。それがあわただしい旅行の移動をそのまま表しているようでおもしろい。

それにしても、すでに日中戦争が始まっていたのに、昭和14年にはまだ修学旅行に行く余裕があったんだな。