前回に続き納豆の話を。
以前、古本屋でこんな本を買った。
野瀬泰申『納豆に砂糖を入れますか?-ニッポン食文化の境界線-』(新潮文庫、2013)
タイトルを見て、「いやいやいや、それはないだろ!?」と思って買ったのだ。
この本の成り立ちは少し変わっている。
もともとは著者が「日本経済新聞」のホームページ「NIKKEI NET」に連載していたものなのだが、その連載は、最初に著者がテーマを挙げて全国の読者に意見を募り、それを著者がまとめるという形をとっている。
こういう食べ物の話、特に食べ方の地域間ギャップ(著者はこれを「食の方言」と呼んでいる)のような話は、ついつい自分も意見を言ってみたくなるものだ。
「自分の地方ではこうだ」とか、「私はこうだけど、夫の実家はちがう」とか、お互いに意見を出すと話が盛り上がる。
それで、タイトルにもなっている「納豆に砂糖を入れるかどうか」という問題だ。
先に結果を述べると、次の地図のようになるらしい。(2000人による投票結果)
見ての通り、砂糖を入れるという人は寒い地方に多い。
もっとも、上の「けっこう入れる」に色分けされているところも、回答の「10%以上の人」が砂糖を入れていれば「けっこう入れる」と判断しているようなので、全体的に言えば、砂糖を入れる人が少数派であることに変わりはない。
(砂糖を入れる理由についても考察されているが、ここでは省略する)
では実際に、納豆に砂糖を入れるとどんな感じになるのか? 試してみた。
どのくらいの分量を入れるべきなのかわからなかったので、30グラムの納豆に、とりあえずティースプーンに軽く一杯の砂糖を入れてよくかき混ぜ、食べてみた。
…………うん、まあ、甘味がついているのはわかるが、納豆自体の味が強いので、このくらいの分量ではなんとも言えない。中途半端な結果だ。砂糖を入れるときにちょっとビビって少なめにした自分が情けない。
もっとはっきりとした味が知りたかったので、思いきってティースプーン山盛り3杯分を追加する。これならどうだ?
改めてかき混ぜる……お? おお! なんだこの粘りは!? 尋常じゃないほど粘りが強い。誇張ではなく、本当に箸が折れそうだ。上の本にも、砂糖を入れると粘りが強くなるとは書かれていたが、まさかこれほどとは……。
箸で持ち上げると、伸びる伸びる。ちょっとおっかなびっくりで口にすると……餅だ! まるで餅のような食感だ! 納豆の糸の束(?)に、やわらかく煮た餅ぐらいの歯ごたえがある。すごい。こんな納豆は初めてだ。
それで肝心の味は……うん、まあ、なんだ……「ご飯のお供」としてはありえないが、こういうスイーツだと言われれば……ギリギリ「あり」かな?
予想では、一口食べて「こんなの食えるかー!」という反応だと思っていたのだが、意外に食べられる。(無料素材で「ちゃぶ台返し」のイラストまで用意していたのに)
味も食感も、とにかく不思議な食べ物だ。
普通の納豆に飽きた人は、一度試してみてはどうだろう。
新しい味覚が開ける、かも?
(付記)上の本の姉妹編として『天ぷらにソースをかけますか?』(新潮文庫)という本もあるが、どちらも絶版。
現在は2冊を1冊に合わせて、ちくま文庫から決定版『天ぷらにソースをかけますか?』(2018)として刊行されている。こちらはまだ新刊で購入できるので、こういう話に興味がある人は、ぜひ。