今年の夏も特に何をするでもなく終わってしまった。普通に仕事に行って、普通にくたびれていただけだ。
それでもあえて「出来事」を探すと……『ガラスの仮面』を読んだことぐらいか。
これは3日間限定で電書版が24巻まで無料で読めるというセールで、私は寝食を忘れるくらい没頭した。読み終わった時にはぐったりして、熱が出たほどだ。
貧乏人にとって「無料」という言葉は昔のラグビー部にとっての「魔法の水」みたいなもので、多少の無理は可能にするのである。
しかし問題はその後だ。
『ガラスの仮面』は現在のところ既刊49巻。つまり私が読んだのは半分にすぎない。続きを読みたくなるのが人情というものだ。
そこで例によってヤフオクを物色する。(基本的に私は有料の電書は買わない)
うーん、古本といっても49巻のセットとなるとけっこうな値段だ。そりゃもちろん買えないことはない。ないのだが、しかし……。と、あれこれ迷った末、意を決して買うことにした。いわゆる「大人買い」というやつだ。
まあ、古本漫画の「大人買い」もできないようでは、大人になった甲斐がない。
発注して待つことしばし、ようやく本が届いた。
しかし、値段の割にはあまり状態が良くない。ハズレを引いたかな。舌打ちするが
どうしようもない。気を取り直して、さっそく続きの25巻から読み始める。
『ふたりの王女』の王女アルディス、『忘れられた荒野』の狼少女ジェーンと、難しい役を好演した北島マヤ。念願の賞も獲得し、正式に紅天女の候補になる。そしてもう一人の候補である姫川亜弓と共に、月影先生が待つ「紅天女のふるさと」へ。お互いを意識しながら先生が出す課題に取り組んでいく。そして月影先生は、「梅の谷」で自身最後の『紅天女』を演じてみせる。
ここでようやく読者に『紅天女』という物語の全容が明らかにされる。名前だけ知らされていたラスボスの登場みたいなものだ。
連載が始まった当初から「幻の名作」とか「演劇界の至宝」などと煽るだけ煽っていたので、もしこれがしょぼい物語だったら……と、ちょっと心配だったのだが、杞憂だった。
『紅天女』は南北朝時代を舞台にした物語で、千年の梅の樹の精(の化身)である女性「阿古夜」と仏師「一真」の恋を中心に展開される。そしてその周りに、争い殺しあう人間の愚かさ、人間と自然の関わり、汎神論的な世界観などが主題として表される壮大な物語だ。
山よ 空よ 海よ わが同胞(はらから)よ
わたしはあなたがたと同じものである……!
宇宙(そら)とわたしは 同じものであり
天地一切の万物とわたしは同じものである…!
わたしは誰…?
地の底から湧きいずる生命の力
天より降りくる大いなる意志(こころ)…!
天と地をつなぐ者…!
紅天女…!
こういう壮大な物語であるだけに、漫画として充分に表現するのは難しいのだろう。ここで失敗したら40年余の努力が水泡に帰すおそれもある。 読者が、そしてなにより作者自身が納得できる表現を探すのに時間がかかるのもわかる。
これと並行して、マヤ自身の恋の行方も気になるところ。
運命のいたずらで(便利な言葉だ)自分をずっと支えてきてくれた「紫のバラの人」が速水であると気づいたマヤ。しかし速水には婚約者紫織が……。お互いの気持ちはわかったものの、事態は泥沼に……。
(この婚約者が出てきてからの展開は、なんとなく80年代の伝説的大映ドラマ『スチュワーデス物語』を彷彿とさせるのだが)
ネットの巷では、次の50巻で完結するのでは? との見方もあるが、いやいや、あと一巻で話をたたむのは無理なんじゃないかと思う。
いずれにしても、次はいつ出るのだろう。
来年の夏までに読めるだろうか……。
今週のお題「夏を振り返る」