何を読んでも何かを思いだす

人生の半分はフィクションでできている。

家なき子の家

 

ある日、古本屋で何の気なしに寺山修司詩集』(ハルキ文庫、2003)を手に取る。

パラパラとめくっていると、一編の詩が目にとまる。(以下、全文)

 

 

    あなたに

 

書物のなかに海がある

心はいつも航海をゆるされる

 

書物のなかに草原がある

心はいつも旅情をたしかめる

 

書物のなかに町がある

心はいつも出会いを待っている

 

人生はしばしば

書物の外ですばらしいひびきを

たてて

くずれるだろう

だがもう一度

やり直すために

書物のなかの家路を帰る

 

書物は

家なき子の家

 

 

なんだかなぁ。ちょっと甘すぎるんじゃないの? 『少女詩集』の中の一編だからかな。それにさ、帰るところが書物だけっていうのはどうよ? ちょっと寂しすぎるんじゃない? ブッキッシュすぎるっていうかさ。

……と、精いっぱいケチをつけようとするのだが、くやしいけれど、私はこの詩を好きにならずにはいられない。

いったい、本が好きな人間で、この詩の魅力に抗しきれる人がいるだろうか?

 

さあ、私もまた家路につこう。

もう一度、いや、何度でもやり直すために。

 

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